ショウキチシリーズ
第三話「身体検査で落ちる?」
前回から、話はずっと飛びますが、そろそろ進学だ就職だと、あわただしくなってきた頃のことです。
3年生になると、私は理数系、ショウキチは文系ということもあり、クラスも別れ別れになってしまいました。希望の進路は、私は理数系の大学、ショウキチは子どもの頃からの夢だったという、警察官になることでした。
その、採用試験のお話です。1次の筆記試験をかろうじてパスし、2次の面接試験も何とかこなしたと聞き、これでショウキチも警察官、O府警も地に落ちたものだと思っていたら、まだ身体検査があるとのことでした。
一応、形式上ということですが、過去にはこれで落とされた人もいるらしいのです。
「オレは、大丈夫や!」 人一倍、いえ人百倍健康優良児のショウキチは、そう豪語して検査を受けに行ったものでした。試験の後は必ず私に報告があったのですが、身体検査のあった次の日、ショウキチは放課後まで、私の前には現れませんでした。
どうしたんだろうとプールまで行くと、(この頃、三年の私達は、部活動の現役からは引退していましたが、ほとんど毎日顔は出していました)しばらくして、肩をガックリと落としたショウキチがやってきました。
「どないしたんや」
私は、腫れ物にでも触るようにそう聞きました。
「嗚呼、オレもうあかんわ。警察官になられへん」
消え入るような声で、そう言ったショウキチの話はこうでした。身体検査は、大きな体育館のようなところで行われました。 身長や体重を測り、握力や背筋力など簡単な基礎体力の測定も無事に済み、最後に健康診断がありました。
それは、問診や聴診のほかに、鼻の検査や視力、聴力など、割と細かく調べられたそうです。
そして、その血も凍るような惨劇は、ショウキチが最後の検査の列に並んだ数分後に起こりました。最後の列に並びながら、様々な数値や記号が書きこまれた、自分の診断表をショウキチが見直してみると、空白の欄は、『肛門、痔、脱肛、梅毒』と書かれてる欄だけだったのです。
それまで、何にも考えていなかったショウキチが、はて、どんな検査をするのだろうと、前の方を眺めてみると、検査をしている医師と、若い看護婦が一人。ちょうどその医師の前に、次に検査を受ける人が
「お願いします!」(各項目でこう言わなければならなかったらしい)
と、大声で言って、クルッと医師に背中を向けると、おもむろにズボンとパンツを同時にずり降ろし、馬跳びの馬のように身体を前に折り曲げ、ちょうどお尻の穴を医師に差し出すようなポーズを取ったのです。
医師は、医療用の薄い手袋をはめた手で、突き出されたお尻の穴を
「ピッ!」
と開き、うむっ、と頷くと
「よし、つぎっ!」
と、言います。
「ありがとうございました!」
と叫びながら、検査の終わった人は、サッとズボンとパンツを同時に上げ、去っていきます。するとまた次の人が
「お願いします!」
と、同じことを繰り返すのです。ショウキチは、もうそれがおかしくておかしくて、(なんで、みんな笑わへんのやろう)と思いながら、やっとのことで、吹き出してしまうのを押さえていました。 しかし、確実に自分の順番は回ってきます。
私語の一つも無く、静かな体育館の中に、
「お願いします!」
「ありがとうございました!」
の声だけが、あちらこちらから聞こえてきます。真面目くさって順番を待つ人達。真剣な顔で一つ一つ肛門を診ていく医師。笑うことを忘れたように、横に立っている看護婦。 その時のショウキチには何もかもが不思議で、面白くて仕方が無かったと、私に語ってくれました。
ついに、ショウキチの順番がきました。 ぐっとつばを飲みこんで、笑いが吹き出すのを押さえながら、なんとか
「お願いします!!」
と、人よりも大きな声で、元気よく言ったショウキチは、みんながやっていたように、クルッと後ろを向くと、一気にズボンとパンツを下ろし、上半身を前に傾けて、馬の格好をしました。
冷やりとした医師の指が、ショウキチの肛門のそばに触れ、
『ピッ!』
と、肛門を広げられた時が、我慢に我慢を重ねた、ショウキチの限界でした。「ブウーワッハッハッハッハッハッハーーー」
そのとき、体育館中にショウキチの笑い声がこだましたと言います。
張り詰めていた緊張の糸が切れてしまうと、もう後は笑うしかありません。順番を待っていた人も、回りで見ていた人も、検査をしていた医師も、果ては笑いを忘れた看護婦まで、怒涛の渦に巻き込まれてしまっていました。
ショウキチの後で順番を待っていた人は、にこやかに笑いながら、検査が受けられたと言うことです。話を終わって、
「検査会場、ぶち壊してしもた〜」
と、なげいているショウキチの横で、私が笑い転げていたのは言うまでもありません。
PS,ショウキチは今でも元気に、警察官をやっています・・・
なんとか、無事、本願を遂げたショウキチの物語は、まだまだ終焉を迎えません。
まるで、本物の、『両津巡査』のような、大活躍?を現在でも続けています。
しかし、ここで一服。
ショウキチの他にも、面白い人たちはたくさんいました。
でも、残念ながら、そのエピソードのほどんどが楽屋落ちなんですが、その中で、皆様に紹介するに堪える、貴重なストーリーを、水泳部副キャプテンが作ってくれています。
次の、コーナーは、その副キャプテンのお話。皆様、洗面器のご用意を・・・