ドアを開けると・・・
===ピンポンダッシュ===

 

 ドアを開けると、また誰もいなかった。
(ほんまに、あのクソガキどもが〜)
 これで、何度目だろうかと、インガは考えた。

 

 近所の中学生の間で、ピンポンダッシュという遊びが流行っていた。
 見知らぬ家のチャイムを鳴らし、誰かが出て来る前に逃げ出すという単純だが悪質なイタズラである。
 学校のPTAや、自治会でも問題になっているが、一向に改善されない。

 

 インガの住まいは、通りに面したアパートの一階にある。しかも、玄関には覗き窓も無く、チャイムが鳴ればドアを開けてみるしかないのである。
(見付けたら張り倒したんのになぁ)
 実はインガも中学生の頃に、少しの間この遊びに夢中になったことがある。しかし、本当に単純な遊びなので、直ぐに飽きてしまった。ただチャイムを押して逃げるだけなので、何度か経験するとバカバカしくなってしまうものらしい。
 ただ、やられた方がこんなに、
(腹が立つ)
ものであるとは、インガもやられてみて始めて解かった。
 そして、一度狙われた家は、結構何度も繰り返されるらしいのだ。一人の中学生が飽きてしまっても、中学生は何百人と居るし、毎年毎年、新しい中学生が現れて来るのだ。
 だから、このインガの家が狙われることに飽きてくれるのを、
(待つしかないんか・・・)
と、インガは半分諦めの境地になっていた。

 

 そして、それからしばらくして、チャイムが押されなくなってきた。
(やっと飽きてきよったか)
 インガが安心していた矢先のこと、
「ピンポーン!」
と、チャイムが鳴った。
(またかいな)
と、思いながらも、急いで玄関まで行き、勢い良くドアを開けると、インガの予想に反して、そこには人が立っていた。近くの中学の制服を着た、女の子であった。
 どうやら、ピンポンダッシュでは無いようだ。
 逃げる様子もなかったので、インガがニッコリと笑おうとしたその瞬間、
「バシッ!」
いきなりインガの頬を叩くと、女子中学生は一目散に逃げ出した。
 インガは呆気に取られた。
 そして、叩かれた頬を手でさすりながら、
「なんや・・・新手のピンポンダッシュか・・・」
 ただ、呆然と中学生の後姿を見つめていた。

 

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