ショウキチシリーズ
第一話「どこを走ってきたんや?」
ショウキチは異常な汗っかきでした。
最近では特にひどくなり、たとえば「カレー」とか「唐辛子」と、目の前で言うだけで、汗がジトーっと流れてくる始末です。そんな彼の、高校2年生のときのお話。
1年の秋ぐらいから、私たちは、仲間内で有志麻雀友の会というのを結成し、毎週日曜日、H君の家でさわやかに賭け(チョコレートを)麻雀を楽しんでいました。
いつの頃だったでしょうか。麻雀のマの字も知らなかったショウキチが仲間に加わったのは。
超初心者だった彼は、私たちを相手に勝てるはずもなく、毎週毎週負け続けながら
「おもろいわー」
と言って、通ってきてくれていました。最初の頃は、電車で1時間半かけて通っていたのですが、原チャリの免許を取得してからは、ノーティーダックスというオンボロバイクを使うようになりました。
その出来事は、たしか2月の寒い朝に起こりました。
メンバーのうち、二人は割と近くに住んでいて、定刻(午前8時半)よりも早く到着し、H君と三人でショウキチが来るのを待っていました。普段なら、大体定刻通りにやってくる彼が、その日に限って定刻を過ぎても現れませんでした。
「どないしたんやろ」
「なんかあったんかな」
と、噂をしていると、玄関が勢いよく開き
「すまんすまん、寝坊したー」
と言いながら、シャワーでも浴びてきたように、全身汗まみれのショウキチが入ってきました。この冬空の中を、Tシャツにジーンズといういでたちで、持参のタオルで汗を拭き拭き、私たちの前にどっかと坐りました。
私たちはかわるがわる質問しました。
「おまえ、どこ走ってきたんや」
「おー、大和川の堤防の上や」
「なーんや、自転車で来たんか」
「いいや、単車で来たよ」
「それで、なんでそんなに汗かいてんねん」
「なんでておまえ、単車で走って来たら、暑いやんけー」
「そら、おまえ、おかしいでー」
「なんでや〜??」ショウキチが真冬の朝、木枯らしの吹く大和川の土手の上を、Tシャツ1枚で単車にまたがって風を切り、大汗をかいている姿を想像すると、今でも私は、情けなくって仕方がありません。