ドアを開けると・・・
===正義のガンマン===
ドアを開けると、その店にも誰もいなかった。
何軒かの店を、こうして覗いて回ったが、どの店も猫の子一匹見当たらない。どうやらここはゴーストタウンのようだ。
俺は力を落として、手近にあった椅子に腰を下ろし、埃にまみれたテーブルの上に足を投げ出した。
ゴールドラッシュの時代と違って、今の西部ではゴーストタウンなど珍しくも何とも無い。ただ、今日は飯にありつけそうにないことは決定的なようだ。近頃では、俺のように西部の荒野を渡り歩くガンマンは、あまり見掛けなくなった。ひところの映画のような、正義のガンマンが活躍した時代は、既に終りを告げている。俺は何とか、細々と食いつないではいるが。
さて、いつまでもここにゆっくりとはしていられない。日も傾いてきたようなので、今日の寝ぐらを探さなければいけない。
俺が店を出て、繋いであった馬のロープをほどこうとした、まさにそのとき、
「キャー!」
絹を引き裂くような女の悲鳴。そして続いて銃の音。
意外と近くから聞こえたその声と音に、俺の身体は即座に反応した。これは身に付いた性分だから仕方がない。すぐそばの角を曲がったところが、その現場であった。
そこには、銃を持ったまま倒れている美形の男。
そして、銃口からまだ煙を出している銃を持った男。こいつはハッキリ言って醜男だ。しかし、その腕にしっかりと抱きかかえられている女。これは飛切りの上玉だ。
この美女に、この醜男はどう考えても釣り合わない。
どうやら、撃たれて倒れている男はこの美女の恋人で、暴漢に恋人が連れ去られそうになったのを助けようとして、返り討ちにあったのだろう。
俺は、この状況を即座にそう判断した。
そうすると、迷っていては次にはこっちが殺られてしまう。
俺は、抜く手も見せずに銃を抜き、醜男の額を撃ち抜いた。
女は、俺のあまりの早業に驚いたのか、呆然として倒れる醜男を見ていた。
俺は、銃口から出る煙をフッと吹き飛ばし、しっかりとホルスターに納めて、その美女に近づきながらこう言った。
「お嬢さん。恋人の敵は討ってあげましたよ。俺はシランといいます。これからの相手は俺では不足ですか?」
女は、クリクリとした大きな瞳を、更に大きく開けながら俺を見つめていた。
(これは、まんざらでもないかな?)
と、思いながら女の側まで寄っていったが、その女の口から出た言葉は、俺の期待を大きく裏切るものだった。
「あなた、頭がおかしいんじゃないの?この女ったらしの蛇のようにしつこい男から守ってくれた、私の兄を撃つなんて・・・」
そう言った女の手には、いつの間にか小さなコルト銃が、しっかりと握りしめられていた。そして、西部のゴーストタウンに三度目の銃声が響いた。
えっ?それからどうなったかって?
そんなこと知るかい。俺はもう意識が薄いんだ。