ドアを開けると・・・
===魔人===
ドアを開けると、部屋の中央にある大理石のテーブルの上に、古めかしい壺が置かれていた。それを発見したとき、考古学者ドクターブラフは喚起の雄叫びを上げた。二十数年前に骨董品屋で見付けた一枚の古文書。その古いアラビア文字を解読すると、アラブのある場所に魔法の壺が隠されていて、ふたを取り呪文を唱えると魔人が現れ、どんな願い事でも一つだけ叶えてくれると記されていた。
それからのドクターブラフは、魔法の壺を探すことだけに人生を費やしたと言っても過言ではない。その夢が遂に実現するときが来たのだ。
ドクターブラフはゆっくりと壺に近づくと、壺のふたを取り呪文を唱えた。
すると壺の口から白い煙が吹き上がり始めた。
(やったぞ、やったぞ)
心の中で何度もつぶやき、ブラフは2・3歩後退した。
ブラフの目の前で、白煙が固まっていき実体化していった。
その魔人の姿を、なんと表現すればよいのだろうか。
13個のどす黒く濁った目がてんでバラバラな方向を向き、四つの巨大な口は今にもブラフを喰らってしまおうかというように大きく開き、体は腐った肉の塊のようで血液や体液らしきものがブシュブシュと音を立てて噴き出している。
その上、悪臭が立ち込め、爪で曇りガラスを引っ掻くときの100倍も嫌な音も発している。
とにかく、二目と見れないような醜悪さであり、人間には絶対に絶えられないような嫌悪感を抱く物体なのであった。
「さあ、願い事を言ってみろ」
焼け火箸を鼓膜に突っ込まれたような声が、その魔人から発せられた。
目をしっかりと閉じ、膝をついて両手を合わせ拝むような格好になっていたブラフは、
「ひぇー。お、お助けをー!」
と、叫んでしまった。
この状況から、一刻も早く抜け出したいブラフの心境を読み取ったのか、
「よし、願い事は解かった」
と言って、魔人と壺は消え去ってしまった。二十数年間のブラフの人生と夢と共に。