暗い道
エピローグ
「お前は神にならない」
トーンは低いけれど心地よい、男性のものと思われる『声』が、出勤前に慌しく朝食を取っている私の耳元に、不意に飛びこんできました。緑にあふれた草原に吹く、さわやかな風のような『声』でした。
私は食事の手を止め、キョロキョロと辺りを見回しました。いつもと変わりのない、古い家のキッチンです。
「メルちゃん、どうしたの?」
テーブルの向かいに座って一緒に朝食を取っていた母が、怪訝そうに私に問い掛けてきました。
「うん、あのね、お母さん。今、声が聞こえたのよ。なんかとっても・・・」
「わかったわかった。お喋りは帰ってから聴くから、早く仕事に行きなさい」
その『声』のことを母に話している時間は、そのときの私にはありませんでした。
土間で靴を履きながら、
(職場の近くにアパートでも借りたいな。でも、お母さんと離れるのは嫌だし・・・)
と、いつもと同じことを思い、いつもと同じように少し息を吸い込むと、その思いを吐き出すように、いつもこう言います。「行って来るねー!」
あとがき
解説はしないと、以前言った事がありました。
しかし、この作品に関しては、書き残したことが余りにたくさん有り過ぎます。
元々、このお話は、私がわがままを言って自作のMIDIを頂いた、Melちゃんに送るために書いた作品でした。
発想は、職場に出勤途中、駅のホームで電車を待ちながら、空を見上げてボーっとしているときに沸いてきました。空−宇宙−神。人間が神になるとしたら、どんなだろう。しかも、ゆっくり神に近づいていくとしたら・・・
そこから、ストーリーの発端を考え付きました。本当にその時点では冒頭部分だけだったんです。
わたしの書き方は、そういうことが多いのです。とりあえず書き出して、結末は書きながら考えます。今回も、例に漏れません。キーボードを叩きながら、どんどん構想が膨らんで行きました。ストーリーの中の「メル」が一人歩きをして行くのです。
ようやく結末を思い付き、それに向かって「メル」を誘導して行きましたが、その時にはもうショートショートと呼ぶには長くなりすぎていました。
しかも、テーマが重すぎる。「神様」なんか扱うんじゃなかったと後悔したときには、既に天罰を食らっていた、という感じです。
さて、書き残したこととはなにか。
まず、神とは何か、ですが、これは保留にしておきます。こんなもの、書いても書いてもキリが無いのは解っていますから。
次の問題は、何故、神は新しい神を作ろうとしたのか、です。作品の中でも「メル」は神(のようなもの?)に、その問いかけをしていますが、神はそれに対して明確な返答をしていません。実は、この問題も、先の「神とは何か」に起因しますので、結局、その解答を明示できませんでした。
「神」については、自分なりに一応、定義は出来ているのですが、これに付いては、いつの日か長編で書く予定をしています。はたして、このHPに載るかどうかは別として。(腹案は出来ています。SFの超大作になる筈?)
そして次の問題点。これは、皆さんも感じていることと思いますが、結末に救いが無さ過ぎる、ということです。実は私はこれを今でも悩んでいます。そして、別の結末を用意してみました。
「暗い道」は、あれはあれで一つの完結の形です。上記の「エピローグ」は、言わば蛇足のようなものかもしれません。救いの無い終わり方でも良いという方は、読まない方がいいかもしれませんね。
でも、エピローグが有る方がいいのか、無い方がいいのか、その辺をお聞かせ頂ければ、つたない私の筆力も少しは向上するかもしれません。
それでは、また・・・