完璧な密輸船

 

 ようやく、目的の星系に入った。あと24時間もすれば、積荷の配達先である惑星の大地を踏みしめることが出来るだろう。

 俺は、宇宙の密輸屋。

 自分で言うのもなんだが、裏の業界では結構名前が通っている方だ。

 しかし、仲間内からは、「間が抜けてなければお前は一流だ」と、よく言われてしまう。そして悔しいが、それは事実だ。

 俺の宇宙船のスピードは、そんじょそこらのパトロール艇には負けやしない。旧式の船なんかはスイスイーっと振りきってしまう。だがその割には、よく捕まっちまう。しかも、間抜けと呼ばれても仕方がない理由によってだ。

 あるとき、星間パトロールに追いかけられた。通常航行だけでも充分逃げ切れたのに調子に乗ってワープをしたら、到達地点の計算間違いで、追いかけてきたパトロール隊の正面に出てしまい、そのまま御用。

 次のときは、高性能のコンピューターに積み替えたが、計算に時間が掛かり過ぎて、いつの間にか軍用空域に追い詰められた。

 逃げるのに懲りてしまったので、今度は密輸の品を隠す方法を考えた。

 上手く隠したつもりだったのに、最初は赤外線探知機で発見され、それの対抗手段を用意したら今度はエックス線探知機。もう、密輸なんて止めようかと、そのときは思ってしまった。

 だが、こんなに間の抜けた俺なら、たとえ普通に勤めてもやっぱり間抜けな失敗を繰り返すことだろう。それなら稼ぎのでかい仕事の方が良いに決まってる。

 だから、やっぱり密輸屋は止められない。

 しかし諸君、喜んでくれ。俺は遂に、完璧な装備を整えることが出来た。

 船のスピードは言うまでも無い。コンピューターも最新式の、計算能力が高く処理速度も速いやつを積んだ。これで、ワープの失敗は無いだろう。

 そして、密輸品用の倉庫も3重の扉に隠され、赤外線やエックス線、その他ほとんどの探査機器を撹乱する装置を取り付けた。

 早く言えば、星間パトロールの本部や各支部に置いてある、ニュートリノ探査機以外には引っ掛かることは無くなったということだ。

 本部や支部の宇宙ステーションに連れて行かれれば厄介なことになるが、通常の検問や検査ではそういうことはまずありえない。

 万が一、宇宙ステーションに連行されれば、そのときは諦めるしかないだろう。なんせ、宇宙ステーションは、それぞれの港口にニュートリノ探知機が設置してあり、入港する船は、逐一スキャンされてしまう。ニュートリノ探査機には、どんな誤魔化しも通用しない。

 ただ、救いとしては、パトロール艇に積みこめるような小型のニュートリノ探査機は、まだ開発されていない、ということであろう。

 装備が完璧というのは、それだけではない。船の儀装も素晴らしい。

 今までは、見るからに怪しい貨物船、という雰囲気だったのだが、外観も内装も一新し、どこかの上流階級の暇を持て余した奴がのんびりと観光旅行を楽しんでいる、という感じに仕上げた。当然、目的地までのパスポートも、正式に取得しているので、間違って検問に引っ掛かっても、咎められることは絶対に無い。

 おっと、こんな話をしてるうちに、本当にパトロール艇が来やがった。

 もう、俺は逃げることはしない。

 パトロール艇からの灯火誘導に従って船速を落とし、接舷ポートを繋いでやったら、そそくさとパトロール員が乗り込んで来やがった。

「すみませんねえ。折角のご旅行の途中に足止めしちゃって。船内チェックは一応、この星域の決り事ですので。いえ、お手間は取らせません。チョチョイッと片付けますから」

 やけに調子の良いパトロール員だ。今まではこんなことは無かった。もっと扱いが悪かったのに。やっぱり着ている物で判断してるのだろうか。

「いえいえ、お役目ご苦労様です。私は別段、急ぐ旅でもありませんし、どうぞごゆっくり調べてください」

 俺は、注意深く言葉を選び、ブルジョア風に応対してやった。

「ありがとうございます。そう言って頂けると本当に助かります。いえ、探査機は使いません。もう外から調べさせて頂きましたから。装備や積荷に問題はありませんでした」

 当たり前だ、馬鹿やろう。

「後はパスポートと免許証さえ拝見させてもらえれば・・・はい、これですね・・・パスポートは間違い無いですね。それと、あっ、免許証の有効期日が過ぎてますね。いえ、これもたいした問題じゃありません。幸い、すぐ近くにパトロール支部の宇宙ステーションがありますので、そこまでご足労願えれば。書き換えなんてすぐに済んじゃいますよ。おや?どうかされましたか?」

 俺は、やっぱり間抜けだ。

 

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