「母からの手紙」

 

 仕事から帰ってきて、いつものようにポストを覗くと、母から手紙が届いていました。

 私が家を出たのは26歳のときと、遅かったのですが、一人暮しを始めてから今まで、母から電話がかかってくることはあっても、手紙などを受け取ったのは、生まれて始めてのことでした。

一瞬、胸に一抹の不安がよぎりました。

(親父に何か有ったのでは・・・)

 父は、数年前に一度、倒れていたのです。
 しかし、そういうたぐいのことなら、手紙よりも電話の方が早いし、胸の中のモヤモヤを 消せないままに、震える手を押さえながら封を切りました。

 手紙には、

「元気でい〜るか、街には馴れたか〜、友達できたか〜♪」

(やりなおし)

 手紙には、元気にしているか、神戸の新居には馴れたか、たまには帰って来い、という心温まる文章と共に、
「お前の保険を増額するから、名前を書いて捺印して送り返せ」
との言葉がありました。

 封筒の中には、保険の増額申込書が同封されていました。

 どうやらこれがメインの用事だったようです。

 私は、母からの手紙を握り締め、あまりの息子思いの母の仕打ちに、涙があふれ出るのを止めることが出来ず、こう叫びました。

「あんまりやー」

 

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